午前・午後コースをガイド

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今日の自転車ガイドは緊張した。なにしろ顧客は87歳のご主人と75歳の奥様。事故のないようにと気を使った一日だった。彼らは過去にいろいろな国を旅行してきている。今回の日本も一ヶ月近く関西、九州を回ってきたとか。そんなご夫妻は帰国を翌日に控えて午前と午後のコースを両方とも申し込んできた。なんともお元気な老人だこと。私としても終日のガイドははじめてのこと。

ご主人は生まれも育ちもニューヨーク・ブルックリンという退役軍人で厚い胸板。この歳でレーパンと出身地であるBrooklynの名前が入ったジャージをバシッと着て登場した。いまでも地元で自転車に乗っているようだ。自分の体力に自信とプライドを持っているのか電動アシストのスイッチはオフのままで走っていた。そしていつも笑顔をたやさずにユーモアを交えた会話をしてくれた。奥様は冷静にものを見て自分が興味を持つことに集中していた。特にいろいろな銅像、彫像にカメラを向けていた。私がいろいろな場所で解説をしてもそれ以外についてはあまり耳を傾けてなかった。いろいろなところを見て回ってすでに見慣れた点が多いのかもしれない。

いつもどおりの午前のコース走っていると奥様が背中に龍や富士山の刺繍がしてあるジャンパーを探してほしいと言ってきた。途中の雷門仲見世に有るかもしれないということで臨時に仲見世に行くことにした。そのためにまず自転車を駐輪する必要がある。近くの墨田公園の地下に駐輪場があるというのでここまで進んで駐輪した。もどって仲見世に入るとなんともこれ以上ないといいえるほどの混雑。混雑にうんざりしながらも顧客が欲しいと言っているので探しながら進む。「アメリカではこんな経験は野球場に行かない限りないでしょう」なんて変な言い訳、お世辞、おべっかを言いながら探し回った結果、ようやくにしてそのお店があった。ところがクレジットカードを使えないということで購入することはできなかった。お互いにやれやれという感じだが一所懸命に探してくれたことは冷静に認めてくれた。

相撲部屋の前では若い力士と一緒に記念撮影。江戸東京博物館は前日に訪れているという事でスキップ。両国駅にできた土俵のレプリカを見学。仲見世に立ち寄ったお陰で午前のコースの終点である秋葉原には30分近く遅れて到着。ここのポートに駐輪し施錠してから昼食。顧客は日本食に飽きたからマクドナルドに行きたいと言うので別れて昼食。

この時に鍵をかけて駐輪した4台の自転車の内一台が他の方に使われてしまった。一時的に駐輪する場合はどこでも鍵をかけて再開するさいにカードで鍵が開くが、ポートで鍵をかけた場合には他人がエンターキーをおしてしまうと「返却」した状態になり他人が使えてしまうわけだ。ポートに仮置きする場合は注意が必要になることが判明。今後の注意事項となった。

午後は秋葉原から同じ自転車で皇居に向かって午後のコースに入った。予定通りコースで勝鬨橋を渡ってからは築地の場外を通過。その後は出発点に戻りたいとのことで銀座を経由して丸ビルのポートに戻った。やはり馴染みのない所でツアーが終わってしまうことに不安があるようだ。銀座は最近オープンした銀座6近辺は歩道に人が溢れていた。一方通行の車道を逆走したが路上駐車している車がなかったのでスムースに通過できた。予定よりも20分ほど遅れて丸ビルに到着。疲れた。

この日のガイドでは2点、課題を感じた。

高齢者のガイド

この日は気持ちの良い五月晴れの青空がひろがる日だった。自転車で走って最高に気持ちが良さそうでこの日一日を楽しみにしてガイドに臨んだ。同時に高齢者のガイドと言うことでとにかく事故の起こらないガイドをどのようにするかを考えていた。どのようにして事故を防ぐか。まず、たまたまこの日のツアーに体験として参加していた日本人の関係者がいたのでその方に最後尾から車線の中央を走ってもらった。こうすることで後続する自動車が幅寄せしにくい状況にしてもらった。そして状況が許す限り歩道をゆっくりと走った。

それでもご主人が落車した。武道館近くの公園内の幅5m位の道をゆっくりと走っている際に前を歩く人や車止めのポールを避けて走る際にバランスを崩したようだ。倒れそうになった際に脚を地面につけても脚力が体重を抑えきれなかったようだ。バンドエイドだけで処置ができる小さなキズをヒザにつけただけで済んだのが不幸中の幸いだった。落車して立ち上がった後も本人は冷静だった。こうした落車をした時に後続の車に接触、轢かれることを恐れていたが今回は園内の道でそれはなかったのは幸いだった。本人は体力があると自負しているのかもしれないが確実に筋力は弱っている高齢者にはこうしたことが発生するリスクは高い。直進しているときは問題ないが日本の都会を走るときには人や障害物を避けながら左右にスラローム状態で走る必要がある。こうした走り方はバランスが悪くなっている高齢者には難しいのかもしれない。ツアーの参加者要件として年齢の上限はないが上限を設けることも必要なのかもしれない。

ツアーは安全が最優先であることは明白。それをどのように担保するかが課題だ。ツアーの後半では疲れがでたのか走行中にフラフラして不安を感じたとツアー後に最後尾を走った方に聞いた。確かに、ガイドにはツアーを中止する権限も有る。それをどのように判断するのか、その時にプライドを持つ顧客にどのように説明するか、ガイドが一人だった場合、後続する顧客がどのような走行しているかをどうやって知ることができるか。いろいろと課題を感じた。

ガイド中の解説

このご夫妻は世界中を旅行して回ってきたベテラン。特に日本を一ヶ月近く旅行して神社仏閣や日本的な美しい景色は何度も見てきた。そうしたご夫妻にツアー中に何を説明するかを考えさせられた。神社のお参りの仕方を説明したらそれはすでに何回も聞いてきたことだと言われた。憲政会館からの眺めも特別な感動を示さなかった。地理の説明にも上の空。かっぱ橋で商品サンプルを販売するお店を紹介しても特に興味を示さずに外から眺めて「これはFakeですよね」、と流行語を言うクールな反応。相撲部屋の前で力士と一緒に写真を撮る機会を作ったがご夫妻は数日前にどこかのイベントで力士と一緒に写真を撮っていたことを後で聞いた。月島の狭い路地を通っても歓声があがらない。一方、奥様はコース上にある無名の銅像や片隅においてある彫像には興味を示してカメラを向けていた。

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その代わり、コース上で解説のために立ち止まった際にはいろいろとおしゃべりした。彼らの若い頃のこと、ドイツに駐留していた頃のこと、、、。ツアーの申込みの際のコメントには「ガイドとたくさん話したい」とあったのでこのことは事前に頭に入れていたがガイドする際には用意した解説を優先してそれ以外のことはこちらから話しかけなかった。当人はこうしたおしゃべりを一番欲していたのかもしれない。こちらから出発を促さない限り楽しげに話し続けていた。東京駅が何年にできたのか、云々よりも彼らのこれまでの旅行体験、自慢話を聞くのに時間を使ったほうが良かったのかもしれない。

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昨年12月にミャンマー、カンボジアを旅行した際には初めてガイドを一日だけ雇った。旅行中に現地の方と話をする貴重な機会だった。一般の方と旅行中に出会っても英語で話をできるとは限らない。そうした時にガイドは貴重な現地の情報源になるわけだ。そうした意味で自転車ガイドをする際にはこうしたニーズがあることもしっかりと理解し、顧客が何を望んでいるのかを早い段階で見極める必要がありそうだ。

最終的には大変満足された様子で帰っていった。この日のことが彼らの多くの思い出の中の一つになって欲しいものだ。最後尾を走って休憩中にはご夫妻と一緒に話をしてくれた同行者のMさんには大変感謝している。

一日が終わったあとでいろいろと考えることがあったガイドだった。

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