「高熱隧道」吉村昭

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先日宇奈月温泉から欅平をおとずれたときに黒部峡谷の過酷な自然の中に列車軌道、ダム、発電所が作られているのに感動した。どれほどの人命と時間とお金を費やしたのだろうと想像していた。

この話をSNSに投稿したところ知人がこの「高熱隧道」を紹介してくれた。

昭和11年から始まった黒部第3発電所の建造。そのために上流の仙人谷まで軌道と水路を切り開く必要があった。このへんは温泉湧出地帯であり隧道を掘り進むにつれて高熱帯を進む必要がある。場所によっては160度を越える。3人におよぶこのかつてない難工事のなかで起こる数々の問題、そしてそれを遂行する監督と坑夫。300人近くの労働者が命を失ったそうだ。

現代の工事現場では想像もできないような過酷な生活を人里はなれた危険な峡谷で送り危険きまわりない工事だったようだ。吹き出す熱湯で火傷、考えも及ばないような強烈な雪崩で宿舎の二階以上が吹き飛ばされたり掘削用のダイナマイトが自然発火して被害がでたり。。。。数々の事故が当たり前のように起こりそれでも坑夫は作業を続けた。

この小説からいろいろのテーマが掘り起こされるが解説にはこう書かれていた。

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それならば、作者がこの作品で、結局のところ追究しようとしたテーマは、あるいはこの劇的な材料に挑んだときの基本のモティーフはどこにあったのだろうか。学者たちの智恵を超えて、現場に臨んだ監督者たちや労働者たちがつぎつぎと新しい工法を発見し工夫してゆく過程にあっただろうか。作業の苦しさに人間がどれだけ耐えるかという極限状況への関心にあっただろうか。世界的に言って曾て無い難工事を完成させた土木事業に対する驚きと感嘆にあっただろうか。英雄的な根津や藤平やの情熱と、それにもかかわらずその敗北に到る変転にあっただろうか。あるいは戦争ー平和ー公害と幾変転する隧道の皮肉な運命に関する興味にあっただろうか。前後二つのヤマ場として、私が前にあげた劇的場面を描くことにあっただろうか。

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私は、戦争が起きつつあるこの時期に戦争遂行に必要な資材を製造するために必須になる電力を確保するのが当時の軍部の目的。その国家目標のために幾多の人命を犠牲として払ってきたこの難工事で翻弄される現場の監督と坑夫の姿が大きなテーマだったと感じる。

北海道旅行をした際に立ち寄った三ヶ日のヒグマ襲撃事件を題材にした「羆嵐」も旅から帰ってから読んでみた。今回の「高熱隧道」もそうだが行く前に読んでおけると良かった。

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