5月22日 酒田市・土門拳と最上屋旅館・久村の酒場
終日、酒田で過ごした。昼は土門拳記念館、本間美術館を訪れ、そして夜は酒田市内の旅館に宿泊し近くの居酒屋で楽しい時間を過ごした。
土門拳
土門拳の記念館を訪れた。その力強さ、真剣さ、に心を打たれた。
酒田市の郊外に鳥海山を望む広い場所にその記念館があった。この建物そのものが素晴らしい作品だ。中に入るとスケールの大きな写真に度肝を抜かれる。「古寺巡礼」に収められた仏像、寺の写真。仏像はその細部を描写した写真も多い。見たことがない繊細さ。奥ゆかしさ。仏像が写真の中から語りかけてくるようだ。
彼が写真を撮影する様子をビデオで見た。かれはシャッターを押すときに気合を入れる。まるで格闘技で技を駆けるときのように。それまで貯めていた魂を一気に吐き出すようにシャッターを押す。
私自身は今回の旅の中で何百枚もの写真を撮ってきた。そこには魂のひとかけらもない。ただ、その場にいたことを記録し証明するだけだ。なんとも恥ずかしくなった。
土門拳。撮る方も一流だが撮られる方も一流ばかりだ。建築物にしても、芸術作品にしても、人にしても被写体が皆一流だ。一流を撮影するには一流の写真家が似合う。
この日は企画展として文人の肖像写真を何枚も展示してあった。彼自身が書いた解説文には、「肖像写真は撮られているほうがあなた任せになった時がいい。そして、撮られているのを意識しないようにするのが写真家にとって課題である。肖像写真とは、カメラを通して描かれ写される人の自画像である。」と言うようなことが書いてあった。それぞれの被写体の表情をみるとこれが実現されているような気がした。
ここで旅の記念として古寺巡礼の中の仏像の写真と額を購入した。
酒田市内の旅館・最上屋旅館
この夜は久しぶりに旅館に泊まった。市内の「最上屋旅館」。大正15年に建てられた古く小さな旅館。中年夫婦が代々受け継いだこの旅館を経営している。部屋は狭く急な階段を登って一番上の3階。四畳半の部屋が二間。その間は茶室のにじり口のように高さが1mちょっとしか無いのでこごむ必要がある。調度品も昭和の匂いがプンプンする。なつかしい。
階段、廊下はもちろん板張りで歩くとギシギシと音を立てる。廊下は明かりが少なく薄暗い。それでもこの薄暗さが懐かしい。一階には立派な鉄製の金庫。いつから使っているのでしょう。
久村の酒場
後で分かったがここは居酒屋界では有名らしい。食べログで調べたらここがたまたま最上屋旅館のすぐ近くにあったので行ってみた。入るとコの字のカウンターがありその奥は小上がりの座敷がある。このコの字のカウンターに座った。向かいとの距離感が絶妙。会話はできるが相手を邪魔しない。中には元舞妓の女将が入って新規のお客の相手をできる。客はどうやら地元が半分、残りは出張者か短期滞在者、そして旅行者だ。カウンターに座って飲み始めると周囲で地元の常連さんが話をしている、と思いきや単身で酒田にきて四ヶ月目のお兄さん。出張できているおじさん。旅行できているおじさん。いろいろな立場の男どもがここに集まっているようだ。ネットでも、テレビ(吉田類の居酒屋放浪記)でも放映されたことがある有名な居酒屋だ。
カウンター越しに見ず知らずの客同士が会話をしている。私もその中にはいって楽しい時間をすごした。隣に座った彼は私と同じ年齢。大阪の会社にまだ嘱託として務めて東北地方をテリトリとして後輩のサポートをしているようだ。今年9月には辞めるつもりとか。私のしているくるま旅の話を聞いてえらく感激し自身も9月には辞める決心をしたとか。大いに意気投合。
この店は確かにいい雰囲気だ。地元民には安くて美味しく食べられるし、出張者には寂しさを紛らし楽しく時間をすごすことができる。こうして皆ここに集まって交わり情報交換をしている。それが自然にできる居酒屋だ。