下町ロケットー池井戸潤

無題 
忙中閑あり、で年末の大掃除の隙間に読んでみた。直木賞作品である。実に面白かった。一気に読んでしまった。

巨大なロケットの基幹部品であるバルブを開発した下町の中小企業が、その製品をロケットの部品として採用されるまでのストーリー。大手取引会社からの一方的な取引中止、それに伴う業績不信、特許訴訟、などのテーマの中に、大企業と中小企業としてお互いを見る目、家族の目、競合会社の目、銀行の目、、、いろいろな視点が提示されている。

後半はバルブをロケットの部品として採用を検討する大企業とこの中小企業との戦いをリアルに描いている。大企業の組織としての意思決定プロセス、納入業者としての評価プロセスが興味深かった。個人的には過去に大企業にも中小企業にも働いた経験がある。当時の社内の様子を思い出して納得しながら読んだ。

納入業者としのて評価、デュー・デリジェンスとしての検査の場面での両者の担当者のやりとりは圧巻だった。部品をなんとかして使いたいその大企業は大企業としての高圧的な態度で部品を提供しようとする中小企業の社内状況を調査する。その過程で、それまで部品として供給することについての社長の判断に対して一枚岩でなかった社内が検査に来た大企業という共通の敵を相手にして団結するところが興味深い。

そして、大企業内での胃がきりきりと痛むような意思決定のプロセス。自分の意思にさからってでも部下は上司に従い、上司は保身に働く。失敗を矮小化しどのように理由つけをするか思案する。これほどの規模でないにしても同じようなこれとは自分でも多少なりとも経験してきたのでここに登場する大企業の一人ひとりの心持ちは理解できる。でも、退職が近くなりもうこうした経験はしなくてすむ、と一人ほくそ笑む自分がいた。

物語は最終的に夢とプライドを持った中小企業が大企業に基幹部品を供給し、それによりロケットの打ち上げに成功した。主人公のゆるぎない夢への挑戦心がこれを実現した原動力になっている。一気に読み終って爽快な気分になった。そして、こうしたチャレンジの対象をもう一度見つけてみたい、とも思った。引退していいのか。

コメント


認証コード6001

コメントは管理者の承認後に表示されます。